奇想曲的パクシフ作品楽賞録

パクシフさんをメインに、ときどき他の海外ドラマについても語ります

逆転の女王は吹き替え版もおすすめです

パク・シフさんの声って、不思議な魔力がありますよね。あの声が聞きたいがゆえに、同じドラマを何度も見てしまう、という面もあります。でも、逆転の女王は吹き替え版も素敵だし、有益なんですよ。今回はその有益な部分について書きたいと思います。

二カ国語音声の字幕付きがベスト

吹き替え版のファンの私でも、正直、テンションが下がりました。
テレビ神奈川で始まった逆転の女王が日本語音声のみと知ったときは……

声優陣は好きなんですよ。
二カ国語版の、日本語音声で見ていた時点でドラマにハマったし、シフ落ちしたのも日本語版の時。はい、シフssi本人の声を知る前に、声優さんの声で視聴していた時からファンになっていました。ですから吹き替え版でもその魅力が損なわれることはないとは思います。

でも、二カ国語音声字幕付きだと、より楽しみが増えるんですよね。韓国語版を見る楽しみ、日本語版を見る楽しみ、両者の違いを味わう楽しみ、と三通りですが実際は三倍以上の楽しみがあります。

だからといって、吹き替えだから見ない、というのはあまりにも勿体ない!そう考える最大の理由は、吹き替え版は、字幕版の不足部分を補ってくれるということです。

字幕と吹き替えの違い

まずは、一般論としての字幕翻訳と吹き替え翻訳の違いについて調べたことを書きます。結論的に言えば、情報の「量」で勝るのは、吹き替えです。字幕翻訳には、タイトな字数制限があるからです。

それぞれの制約

シフファンになるまで知らなかったのですが、字幕翻訳には、字数制限があるそうなんです。

原音1秒につき4文字

これが基本だそうです
原音のセリフが2秒なら字幕は8文字以内ですね

映像翻訳.comによると、日本初の字幕付き映画は昭和6年の『モロッコ』で、翻訳者らが観客が読める文字数の実験を重ねて導かれた文字数なのだそうです。(参照)[映像翻訳.COM]

一方の吹き替えの場合は、字数制限はないものの、俳優の口の動きや台詞のテンポに合わせて翻訳台本を作らなければならないそう。

そのほか
・字幕は書き言葉なのに対して、吹き替えは口語的
・吹き替えでは聞き取りやすさを考慮して同音異義語は避ける
といった違いもあるそうです。

両者の違いは下記の翻訳会社のサイトの説明がわかりやすかったです。
(参照1)[forecross] (参照2)[通訳翻訳舎]

字幕は3割って本当?

字幕翻訳について調べていて何度か目にした言葉
「字幕は3割」
字幕は原文の3割の情報しか入らないという意味です。

いやあ、衝撃的な数字ですね。字幕には、相当数の意訳・省略が含まれていることが予想される数字です。

もちろん、意訳を全否定はしません。直訳しても意味不明とか真意が伝わらないケースでは意訳が不可欠でしょう。けれども、字数制限のためにやむを得ず、意訳・省略するケースも多々あると考えたほうがよさそうです。

映画批評家前田有一氏の言葉です。

 映画通ほど字幕にこだわるイメージがあるが、映画批評家前田有一氏は、意外にも「総合的には吹き替えのほうが優れている」ときっぱり。

「字幕は一度に表示できる文字数に限りがあり、台詞にかなりの省略や意訳が必要。翻訳がオリジナルのニュアンスとかけ離れてしまうことも多く、複雑なストーリーや情報量の多い映画を一度で理解したいなら、吹き替えのほうがおすすめです」と語る

(日刊SPAより リンクは後述)
オリジナルのニュアンスとかけ離れてしまう、なんて聞くと、字幕の過信は禁物、なんて思ってしまいます。

では、字幕はオリジナルの3割なら、吹き替えは何割なのか。7割と書くところもあれば、8割、9割と書いているサイトもあります。

いずれにせよ、吹き替えはオリジナルの7割以上は確実に盛り込めるということ。字幕は3割、吹き替えは7割以上、ということで、情報量では吹き替えの圧勝です。

ただ、字幕は3割とはいっても、映像翻訳家・中沢志乃さんによると

元のセリフから7割を削って3割だけ残すということではなく、何か違う言葉を使ってセリフの内容全部を短く表現して3割の長さにすることだと思うのです。ただ、それが理想ではあるのですが、なかなか思うようにはいきません。

とのこと(出典は後述)

字数制限の中で、いかに原文の真意を伝えられるか、情報の質を高められるかが翻訳者の腕の見せどころ、ということでしょう。そのために必要なのは、外国語力・日本語力・読解力なんていわれますが、個人的には、それらに加えて「発想力」が必要なんじゃないかなと思います。

参考になるサイトのまとめ

せっかくなので、字幕翻訳と吹き替え翻訳についてこれまで紹介した以外で、面白かったサイトをご紹介します。

まず、前述した日刊SPA。字幕向きのジャンル、吹き替え向きのジャンルが簡潔に書かれています。私の駄文を読むより速いですね。
nikkan-spa.jp

海外ドラマNAVI。俳優の尾崎英二郎氏が、俳優の視点から、字幕と吹き替えそれぞれの良さを解説されています。
dramanavi.net

映像翻訳のルールは韓国語でも同じ。韓国語翻訳家の幡野泉氏が翻訳作業を具体的に説明されています。現在は字数制限を自動表示してくれるソフトを使うのが普通で、字数オーバーするとアテンションマークがつくなんてお話も。allabout.co.jp

幡野さんによると、それぞれ特殊な技術が必要なため、字幕と吹き替えの両方ができる翻訳者はそれほど多くないとのこと。字幕をつける作業と吹き替えのそれは別物で、それぞれの面白さがあるようです。翻訳家が口をそろえて言う「吹き替えは全部訳さないといけないのが大変」との言葉にビックリ。

こちらは吹き替え翻訳家、平田勝茂氏のインタビュー。今は声優も翻訳も平均的で個性がなくなってきているとの苦言も。
video.foxjapan.com

こちらは字幕の方がやりやすいという、前述した映像翻訳家・中沢志乃氏のお話。「登場人物の心を訳す」感覚で訳しているという言葉が印象的。
www.fellow-academy.com

こちらは、吹き替え映画増加の背景を解説した2010年の記事。シネコンの増加、3D映画の登場といった映画の送り手側の事情に加え、「字幕を読み切れない」見る側の事情により、吹き替え映画が増えているそうです。
style.nikkei.com

ご存知、戸田奈津子氏の講演録。海外の作品を字幕で視聴するのは日本独特の「文化」だが、近年それに変化がみられるとのこと。若者の活字離れの影響を戸田氏も指摘されています。
www.academyhills.com

最後に英訳の練習をしてみたい方はこちらを。刑事コロンボのセリフを題材にした、望ましい字幕の作り方の解説です。実際には字数をオーバーさせることもあるが、1秒5文字の字幕だと10分もしないうちに目が痛くなるだろうなんて話も。繊細な世界なんですね。
www.talkie.jp


私が逆転の女王の吹き替え版を好きな理由

ここまでは、一般論としての字幕版と吹き替え版の特徴について書いてきました。最後に、個人的に思ったことを、逆転の女王の吹き替え版をおすすめする理由について書きます。

私が逆転の女王の吹き替え版を好きなのは、知りたいことを教えてくれるからです。

韓国ドラマの字幕版を見ていると、ここは省略したなとか、原文はそんなこと言ってないだろ、と思うことがありますよね。その省略・意訳箇所を、吹き替えではどう訳しているのかな、という興味から吹き替え版を見てみて、字幕版と全く同じ表現だった場合、すごくがっかりします。

ほかの韓国ドラマの吹き替えでは、そういうことがけっこうあるんです。原文の子細がわからないので吹き替え版だけが頼りなのに、字幕版と同じ意訳・省略だと、吹き替え版くらい表現変えてほしいわ!と思ってしまいます。

もちろん、字幕と吹き替えの翻訳が同一のほうが、翻訳の完成度は高いと評価することもできるでしょう。最良の翻訳だから同一の翻訳で通しているように見えるので。

でも、どう考えてもこれは字数制限による意訳だよな、という表現もあるのです。そういうやむをえない意訳、しっくりこない意訳は、吹き替え版では違う表現にしてもらったほうがありがたいです。

その点、逆転の女王の吹き替えは面白いですよ。そんなに表現変えなくても、と思うくらい字幕版と違いがあります。字幕版と吹き替え版の差異が大きいのが逆転の女王の特徴だと思います。具体的には、

・字幕版の意訳部分は、吹き替えでは原文の意に近い表現になっていることが多い

・反対に、吹き替えの方が意訳になっているケースも結構ある。その場合は、字幕の方が原文に近い形になっていることが多い

「多い」のであって「すべて」ではないのですが、字幕と吹き替えの両方で補完しあっていて、原文カバー率が高いと思います。字幕版と吹き替え版のセットで見てみるのがおすすめのドラマです。

逆転の女王の翻訳の全体的な特徴について、もう少し書くべきことがあるのですが、それはもう少し見てからにしようと思います。


ところで、テレビ神奈川で放送中の逆転の女王、今夜が第20話の放送です。逆転の女王の字幕版の中で、もっとも「大胆な」意訳だと私が思う表現が、第20話に出てきます。テレビ神奈川版では字幕が表示されませんが、シフファンには、おそらく有名なセリフです。吹き替え版が原文の直訳なので、ぜひ聞いてみてください。