韓国大統領選挙〜負けてもクリアしたい得票率ラインは?

前回はユン・テホ氏のウェブ漫画を映画化した『苔』、邦題『黒く濁る村』についてでした。
だいぶ間が空いてしまいましたが、ユン・テホウェブ漫画を基にしたもう一本の映画『内部者たち』(邦題 インサイダーズ/内部者たち)についてを…

のつもりだったのですが、急遽、韓国大統領選挙の話題です。

というのも、ユン・テホ氏が大統領選挙運動に関わったニュースがあがってきたから!


ユン・テホ氏のウェブ漫画は映像化でも成功していて、映画『黒く濁る村』『内部者たち』のほか、日本でリメークもされたドラマ『ミセン-未生-』の原作もユン・テホ氏です。

そのユン・テホ氏、なんと今回の大統領選挙で文在寅(ムン・ジェイン)候補のテレビ賛助演説者の一人に選ばれて、去る4月29日にムン・ジェイン支持を訴えておられました👀

盧武鉉元大統領の側近だったムン・ジェイン候補の賛助者として登場されるとは、個人的にはタイムリー過ぎな感じですよ。

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賛助演説をするユン・テホ作家 〜ノーカットニュースより

賛助演説って何?と調べていたら、選挙費用の国費負担の話に至りました。お金から大統領選挙を見てみるのも面白いですね。ちょっと追記しておこう、のつもりがそれだけで長くなったので今回はその話のみです。



まず賛助演説とは何か?ですが、政見放送の応援演説版と思えば良いようです。

公職選挙法第71条で放送演説の回数と時間が定められていて、大統領候補自身で最大22回(テレビとラジオ各11回)、候補者が指名した演説員(賛助者)で最大22回(テレビ・ラジオ各11回)、各20分という規定。

候補者本人と賛助者合わせて最大44回可能という訳ですが、最大回数を申請したのはで文在寅氏と、中盤まで勢いのあった安哲秀(アン・チョルス)候補のみ。

旧与党「自由韓国党」の洪準杓(ホン・ジュンピョ)氏は、本人7回、賛助演説4回の計11回だけの申請。正しい政党ユ・スンミン候補と正義党シム・サンジョン候補は放送演説ゼロ回です。

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中央日報より

左から ムン・ジェイン(共に民主党)/アン・チョルス(国民の党)/ホン・ジュンピョ(自由韓国党)/ユ・スンミン(正しい政党)/シム・サンジョン(正義党)
※放送演説についてはかかれていませんが、各党と候補者が分かりやすいので貼りました。なお、この表中の選挙補助金は予定額で、実際の支給額とは相違があります。

候補者によって放送演説回数に偏りが出るのは
放送演説がタダではないから

例えばKBS平日夕方のニュース前後の20分間では、4億4030万ウォン。ラジオはテレビより安いものの、演説一回につき最大3689万ウォン、最低でも460万ウォン。
価格データはハフィントンポストコリアが引用のnews1
http://www.huffingtonpost.kr/2017/04/21/story_n_16138450.html

法定最大の44回の場合、約100億ウォンが必要と各メディア共通で伝えられています。



選挙費用の国費補助は?
もちろん、選挙運動費用を国費で負担する制度もあります。

まず大統領候補者を出した政党に支給される選挙補助金です。大統領選挙がある年に、経常補助金1年分が選挙補助金として追加で支給されます。

補助金支給基準を一応引用しておくと、
選挙補助金は政治資金法に基づき、交渉団体(20議席以上)を構成する政党に選挙補助金総額の50%が均等配分される。5席以上、20席未満の政党には総額の5%、5席未満の議席を持ち、一定の条件を満たす政党には総額の2%が支給される。残りの半分は国会議員議席数比率で、半分は国会議員総選挙の得票比率に応じて配分される。
聯合ニュースより引用

複雑な感じですが実際の支給額を見ると、国会での議席数に比例した額が支給されていますよ。

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左から
共に民主党 119議席 123億5737万ウォン
自由韓国党 93議席 119億8433万ウォン
国民の党 39議席 86億6856万5900ウォン
正しい政党 33議席 63億4309万ウォン
正義党 6議席 27億5653万ウォン
セヌリ党 1議席 3258万ウォン
総額421億4249万ウォンが支給

http://mobile.newsis.com/view.html?ar_id=NISX20170418_0014838730#imadnews


選挙補助金とは「別口」で、得票率に応じて選挙費用を国費で補填する制度もあります。

今回の大統領選挙の選挙費用制限額は
一候補あたり509億9400万ウォン
当選者及び、有効投票総数の15%以上を得票した場合、あるいは候補者が死亡した場合は、選挙運動に直接使用した選挙費用全額が補填されることになっています。15%に満たない場合も含めてまとめると以下のようになります。

当選者と得票率15%以上:全額補填
得票率10%以上〜15%未満:半額補填
得票率10%未満:補填なし

※中央選挙管理委員会ホームページにより細かい規定が載っています。なお、
大統領選挙と国会議員選挙においては国費で、地方自治団体議会の議員及び長の選挙においては地方自治団体の予算で補填されることになっています

http://m.1390.go.kr/lawmobile/laws.letter.do?cont_id=201202150167&cont_sid=0002


得票率が10%に満たないと一切、補填されないんですね〜👀
時事IN記事が詳しくて分かりやすいのですが、全額補填とはいっても、前回大統領選挙では補填率93%台なのだそうです。それでもそれだけ補填されるのはありがたい話です。

大統領には及びもせぬが、せめて超えたや一割五分
全額補填には及びもせぬが、せめて超えたや十の壁

「本間様には及びもせぬが〜」をもじると、こんな気分ではないでしょうか(^^;;



その上、得票率は寄託金(日本の選挙での供託金に相当)の返戻率に影響します。
大統領選挙の寄託金は3億ウォンで、返戻条件は上と同じ。当選者及び得票率15%以上で全額、10%以上15%未満の得票率では半額が返されるが、得票率が10%未満だと寄託金は返されません!


こうなると、各陣営とも得票率を考慮しながら選挙運動費の振り分けを考えなければならないですよね。
「放送演説」の多少も、予想得票率の影響を受けているというのが各メディアの見立てです。

つまり、事前の支持率が高くて選挙費用の回収が期待できる陣営にはハードルがそれ程高くはなくても、そうでない陣営は高額な放送料を払うのは躊躇してしまうということです。

ちょっと世論調査を見てみましょうか。

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韓国ギャラップ調べで、グレーが3月末、朱色が4月6〜8日での数字です。ちなみに、公式選挙運動開始日は4月17日、放送演説日程が確定したのは4月20日です。

4月初旬時点で、支持率15%以上はムン・ジェイン氏とアン・チョルス氏のみ。3位のホン・ジュンピョ氏でも10%未満です。

放送演説を法定最大の44回申請したのは二強だった二陣営のみ。ホン・ジュンピョ氏は本人7回(内テレビ演説4回)、賛助演説4回(内テレビ演説2回)の計11回の申請。確かに申請回数と支持率が比例しています。

例外も一人います。
グラフには出ていない支持率0%台の国民大統合党チャン・ソンミン候補が、テレビ放送演説10回(全て本人演説)を申請していて、何でこの人が?という感じで書かれていました^^;

放送演説申請者は、チャン・ソンミン氏も合わせて4人だけです。
大統領選挙登録者は15人(内2人はその後辞退)ですよ!放送演説が44回の候補者もいるのに、殆どの候補者はゼロ回だなんて、格差が大きいですよね〜



そうは言っても、放送演説回数に比例して支持率がさらに上がる、ということでもないんですよね。

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この調査はリアルメーター。
4月17,18日と、5月1,2日調査の比較。
目立つのは、アン・チョルス氏の支持率が急落して、反対に旧与党のホン・ジュンピョ氏が急上昇していること❗️

こっちのグラフの方が支持率変化がわかりやすいかな

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これはまた別の調査会社エムブレインの数字です。緑がアン・チョルス氏、赤がホン・ジュンピョ氏。
アン・チョルス氏の場合、選挙運動公式開始日の4/17から、支持率は下落の一途をたどっています。

アン・チョルス氏はテレビ討論会での評価が低かったと言われているんですよね。

せっかく放送演説にお金をかけたのに〜
44回で100億ウォンもするのに〜
100億ウォンは一体何だったの?という感じです。
※アン・チョルス陣営は4月の段階で候補者演説8回(内テレビ4回)、賛助演説7回(内テレビ4回)が終了

しかも得票率が15%以上なら、税金で補填されるんですから。おまけにその場合、事前に支給された選挙補助金はそのまま温存されて、懐に入るんですよ!というのが次のお話です。



補填額と選挙補助金の関係は?
これ、結構気になったんですよね。
補填基準をクリアして選挙費用全額あるいは半額補填される時、既に支給されている選挙補助金を引いた額で補填されるのか。それとも重複してもらえるのか。

答えは重複支給でした!

例えばムン・ジェイン氏が当選するとして、当選者は自動的に全額補填。共に民主党は選挙費用を総額470億ウォン規模で策定とあるのでその数字で考えてみます。既に選挙補助金が約123億ウォン支給されているから、

470億ー123億=347億ウォン

が支給されるのではなく、
470億ウォンが支給されるとのこと❗️

つまり
選挙補助金として支給された123億ウォンが温存されるんです‼️

それっておかしくないですか?
例えば交通費として事前に10万円貰い、総額50万円かかりましたと請求したらさらに50万円支給され、懐に10万円が丸々残る、みたいな話でしょ。何だかオイシイ話よね。


その点を具体的な数字で追求しているのが中央日報記事です。
http://mnews.joins.com/article/21461019

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この図は、セヌリ党(自由韓国党前身)と、共に民主党の年度別資産額です。赤がセヌリ党、ブルーが共に民主党

前回の第18代大統領選挙が終わった2012年末、セヌリ党民主統合党(共に民主党前身)の資産はそれぞれ1億7700万ウォン、-282億9900万ウォン。
選挙費用の補填が終わった2013年末の資産は、それぞれ371億5千万ウォン、86億5900万ウォン。つまり大統領選挙後、どちらの党も360億ウォン以上資産が増えたということ。

ちなみに第18代大統領選挙の補助金としてセヌリ党に177億137万ウォン、民主統合党に161億5056万ウォン支給されたが、両党とも選挙費用が全額補填されたので、補助金はそのまま政党の金庫へ。

それはやはり問題だということで2013年5月、中央選挙管理委員会が「政党の選挙費用補填額を支給するときには、すでに支給した選挙補助金は減額して支給するようにしなければならない」という公職選挙法改正意見を提出したが、国会で退けられたとのことです。


有力政党は大統領選挙で「選挙財テク」をして腹を肥やしている、という批判も出ているとのことですが、当然の批判ですよ。

選挙費用補填が期待できる有力政党は、法定上限近くの大金を投じて選挙運動を行い、選挙費は税金で補填される上に選挙補助金は丸々残る!その財テク資金が次の活動の元手になって、有力な立場を固められる…
もっとも、身の丈以上の選挙運動費を支出して目標得票率に届かなかったら、一転して苦しい立場になりかねませんが。


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世界日報より
http://www.segye.com/content/html/2017/04/18/20170418003623.html
この図で見てもらいたいのは選挙費の予算規模。
左から、共に民主党470億ウォン、自由韓国党450億ウォン、国民の党450億ウォン、正しい政党90億ウォン、正義党52億ウォンとなっています。

注目は自由韓国党。
旧与党セヌリ党から党名を変えたホン・ジュンピョ候補の党です。

自由韓国党は、放送演説回数は11回のみと、ライバル二党の44回と比べると控えめな数字。けれども、予算総額を見るとライバルと遜色のない規模です。

図の一番下は、選挙補助金以外での予算調達計画。自由韓国党は党費、銀行ローン、後援金。

記事本文を読むと、銀行ローンの中身が面白い👀
支部の党舎を担保にしたローンで250億ウォンを工面したとあるんですよ。
別の記事、イーデイリーによると、党本部党舎、つまり党本部の建物は賃貸物件なので担保には出来ないと書かれています。

これに選挙補助金119億ウォンと党費130億ウォンを加えて500億ウォン規模の予算を準備したとのこと。
やはり有力政党は資金集めに強い‼️
その中で、過去の「選挙財テク費」も足しになっているのでは…^^;


そのほか、主要3党は補助金の4倍程の選挙予算を組んでいるのも気になります。

他の2党は多くて2倍。得票率10%以上とれれば選挙費用の半額が補填され、残り半分は補助金で賄ってトータル赤字なしの水準ですよね。

一方主要3党が200億でも300億でもなく、法定上限の500億ウォン近くで選挙費を策定しているのは、全額補填を頼みにして、だからこそでしょ。本当にそんなに必要なのかしら?

無駄な支出もあると思うんですよね。
例えばアン・チョルス陣営の放送演説。

正義党のシム候補は放送演説「ゼロ回」なのに、テレビ討論会で心を掴んで支持率上昇↗️
放送演説「44回」予定のアン候補は支持率が右肩下がり↘️

最後に浮上すれば、アン氏の5月分の放送演説は無駄ではなかった、と思えるでしょうかねえ??

だって放送演説のトータル料高過ぎでしょ。
放送演説44回の100億ウォンは、シム氏陣営の予定選挙費総額52億ウォンの2倍の額ですからね。
驚きの高コストで、税金での全額補填が見込まれた候補に許された高支出、に思えるんですよね〜








さてさて、
以上駆け足で選挙とお金について見てきました。
いよいよ今日の投票で大統領が決まります。最後にもう一度支持率を確認しておきます。


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左がリアルメーター、右が韓国ギャラップ調査。
5月1,2日実施で3日に公表されたこの調査が、世論調査結果の公表禁止期間が始まる前の最後のものになります。

どちらの調査でも、ムン・ジェイン,ホン・ジュンピョ,アン・チョルス候補は支持率15%を超えています。
正義党シム・サンジョン候補は、さらなる追い上げを期待すれば10%に届く可能性も見えますが、正しい政党のユ・スンミン候補は厳しそうです。


大統領はこのまま決まりかなあ〜という感じですが、得票率にも注目すると面白いかもしれませんね。



※個別にリンク先を掲載したものの他、下記記事を参照しました。順番に
ノーカットニュース,中央日報,時事IN,リアルメーター,イーデイリー

http://www.nocutnews.co.kr/news/4777826
http://mnews.joins.com/article/21461021
http://m.sisain.co.kr/?mod=news&act=articleView&idxno=28799
http://www.realmeter.net/2017/05/공표금지-직전-안심번호-19대-대선-여론조사-문-42-4-홍-18-6/?ckattempt=1
http://m.edaily.co.kr/html/news/newsgate.html?newsid=E01272646615897760