スタジオドラゴンの強みとは〜CJグループと資金力&ビジョン編

更新遅すぎで、まだその話かという感じですが…スタジオドラゴンの続きを。なお、より話題に合うよう前記事タイトルを変更しました。

ということでさっそく本題に入ります。


スタジオドラゴンの強さの源泉は、何と言っても
CJ E&Mのドラマ事業本部を母体にしていることでしょう。

まず、CJ E&Mがケーブルチャンネルを持っていることが強み。それにより、スタジオドラゴンはテレビ局の顔もある。

現在、スタジオドラゴンの市場占有率は20〜25%で韓国1位。
地上波ドラマも手掛けているものの、圧倒的に多いのは自社チャンネルのtvNとOCNドラマ。中でもtvNとOCNの土日ドラマ(以前はtvN金土ドラマ)はこれまでのところ全て、スタジオドラゴンが関与したスタジオドラゴンブランドです。

スタジオドラゴン初出以降のtvN金土(現土日)ドラマ
『シグナル』
© STUDIO DRAGON CORPORATION & ASTORY
『記憶』© STUDIO DRAGON CORPORATION
『ディアマイフレンズ』© STUDIO DRAGON CORPORATION
『グッドワイフ』© STUDIO DRAGON CORPORATION
『THE K2 』 © STUDIO DRAGON CORPORATION
トッケビ© STUDIO DRAGON CORPORATION
『明日、キミと』 © STUDIO DRAGON CORPORATION
『シカゴ・タイプライター』© STUDIO DRAGON CORPORATION
『秘密の森』 © STUDIO DRAGON CORPORATION
『名不虚伝 』 © STUDIO DRAGON CORPORATION
『ピョンヒョクの恋』 © STUDIO DRAGON CORPORATION
『世界でもっとも美しい別れ』
『遊花記』
『Live(生きる)』

OCN土日ドラマ
『ヴァンパイア探偵』
©STUDIO DRAGON CORPORATION
『38師機動隊』©STUDIO DRAGON CORPORATION
『ボイス』©STUDIO DRAGON CORPORATION
『トンネル』©STUDIO DRAGON CORPORATION
『デュエル』© STUDIO DRAGON CORPORATION
『助けて』©STUDIO DRAGON CORPORATION
『ブラック』©STUDIO DRAGON CORPORATION
『悪いやつら 悪の都市』
『小さな神の子どもたち』

『シカゴ・タイプライター』まではtvN金土。『秘密の森』から土日に移動
新作のコピーライトは未確認

☆印は、スタジオドラゴン制作又は他社と共同制作、とウィキペディアで分類しているもの。

☆印のない作品は企画=スタジオドラゴン,制作=他社。
こちらもスタジオドラゴン制作作品にカウントしているから、その分、制作本数が増える!しかも自社チャンネルだから制作量も安定的。


知的財産権を直接保有するケースが多いのもスタジオドラゴンの特徴。

地上波で放送の『空港に行く道』『キャリアを引く女』『青い海の伝説』も著作権はスタジオドラゴン。この方式は、制作費が高額だとそれを回収出来ないリスクがあるものの、「何年経っても知的財産権が収益につながるビジネス構造」(チェ・ジニ スタジオドラゴン代表理事)。
ニュースPIMより
https://m.sharewise.com/kr/#/news_articles/IPO_____1______NEWSPIM_20171109_0647


さらに、テレビ局としての顔も持っていると立場も強い。
一般的に、テレビ局と制作会社の力関係は

テレビ局>制作会社

と、ドラマの編成権を持っているテレビ局の方が強い。
スタジオドラゴンは地上波局に対しては制作会社という立場だが、自前のテレビチャンネルがあるから、中小の制作会社のように地上波局の顔色を見なくてよい、と言われています。



◇◇強み其のニは、CJ E&Mの資金力
CJ E&Mが属するCJグループは、投資意欲旺盛な会社です。

CJグループのイ・ジェヒョン会長はサムスン(原音はサムソン)創業者の嫡孫。イ・ジェヒョンCJ会長の父親はサムスン創業者の長男だが、サムスン後継者の座から転落。後継指名されたイ・ゴニ現サムスン電子会長は創業者の三男です。

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向かって左から
イ・メンヒ(李孟熙)氏→サムスン初代会長の長男。イ・ジェヒョンCJグループ会長の父。生1931–2015年没
イ・ミギョンCJグループ副会長→イ・ジェヒョンCJグループ会長の姉。1958年生まれ。
CJの文化・エンタメ事業を育てた功労者。2014年、病気療養を理由に渡米し経営の一線から退く。検察は1月23日、パク・クネ大統領(当時)の指示でイ・ミギョン副会長が退任するよう圧力をかけたとして、前青瓦台経済主席に懲役3年を求刑。報道では、CJの映画『王になった男』やtvNの政治風刺番組が左派偏向としてCJに政治圧力をかけたという。

イ・ジェヒョン(李在賢)CJグループ会長1960年生まれ。1993年サムスンから系列分離開始。父親のメンヒ氏はCJグループ経営に関与せず、母方の叔父が経営を補佐。



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イ・ビョンチョル(李秉喆)初代サムスン会長→イ・ジェヒョン(李在賢)CJ会長の祖父。生1910ー1987年没
イ・ゴニ(李健煕)現サムスン電子会長→李在賢CJ会長の叔父。1942年生まれ
イ・ジェヨン(李在鎔)サムスン電子副会長→李在賢CJ会長のいとこ。1968年生まれ


〜CJグループの歩みを簡単にまとめると〜

CJグループの母体は、サムスングループ中の第一製糖。
第一製糖=韓国音読みチェイル ジェダン/英表記 Cheil Jedang 略してCJ
がグループ名の由来です。

イ・ジェヒョン氏の母親が舅のサムスン創業者から継承した安国火災株式と、イ・ゴニ会長側が保有する第一製糖株式を相互交換する形でサムスンから独立。

2002年にグループ名を第一製糖グループからCJグループに変更。本業を母体に、外食業、映画・メディア事業、流通など事業拡大し、グループ売上高は1994年の1兆4千億ウォンから、2016年には31兆ウォンまで成長。

CJグループ年度別売上高推移
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出処は下掲中央日報

イ・ジェヒョン会長の目標はさらに上。
諸事情で4年間経営から離れていたジェヒョン会長が2017年5月の復帰時に掲げたビジョンは、従来のGreat CJを越える“ワールドベストCJ”

2020年にグループ売上高100兆ウォンを実現してグレートCJを達成し、2030年までに3つ以上の事業で世界1位になり、最終的にはすべての事業で世界最高となる、というもの。実現のため2017年投資規模目標は5兆ウォン、2020年までに36兆ウォンを投資する計画


すべての事業で「世界最高」とは壮大な気もしますが。
サムソン創業家嫡流としての自負や、サムソングループへの意識も関係しているのでしょうか。


でも、将来は分かりませんよね。CJが文化事業に進出した際は内部から懸念の声もあったそうですが、今となっては大成功。韓国を代表する映画投資配給会社になったわけですから。

CJが文化事業に進出したのは1995年。 スピルバーグ監督らが設立したアメリカの映画製作・配給会社ドリームワークスに3億ドルを出資したのが始まり。これは、当時のグループ資産1兆ウォンの23%に相当する出資額。「食品会社が不慣れな映画事業に投資するのはギャンブルではないか」と心配する声もあったそうです(下掲中央日報)。



世界1位を狙えるのは映画館事業?
1998年には韓国初のシネマコンプレックスCGVを開業。ちょっと脱線しますが、CJのシネコンは積極的に世界展開していて、驚きました。

CJ CGVの世界進出現況(スクリーン数)
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中央日報 2017.09.02より
이재현 CJ그룹 회장, 'World Best CJ'의 3가지 키워드
韓国 1054スクリーン
中国 703
トルコ 800
ベトナム 306
インドネシア 227
ミャンマー 19
アメリカ 11
合計 3120スクリーン


ちなみに世界での位置はというと、CJ CGVは世界第5位です。

グローバル劇場事業者トップ5の進出国家とスクリーン数
2016年第3四半期基準

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CJグループ公式ブログ 2017.02.22より
http://blog.cj.net/2010


世界1位は中国のワンダシネマズ(ワンダグループ=大連万達集団)で、スクリーン数1万3千余。
「3つ以上の事業で世界一になる」目標を掲げるCJグループの世界一候補として、映画館運営事業が有力かなと思ったのですが。けっこう差がありますね。

CJも現状では満足しておらず、2017年10月にはロシア進出を発表。ロシアを足がかりにヨーロッパ進出も展望しており、2020年までに全世界で1万スクリーン、観客数7億人を目標にするとのこと。
韓国経済証券より
http://stock.hankyung.com/news/app/newsview.php?aid=2017102335241

1万スクリーンですか。
やはりワンダグループを意識しているようですね。グローバル競争下では、積極攻勢をかけないと生き残れないという危機感もあるのかもしれません。




スタジオドラゴンの事業計画
最終的に「世界一」を目指すCJグループなので当然、その傘下のスタジオドラゴンの目標も高い。スタジオドラゴンホームページを見てみると

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「アジアのコンテンツとライフスタイルをリードするアジアナンバーワンスタジオ」
何をもってナンバーワンと定義するのか不明ですが。


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「国内やアジアに安住せず、2020年にはタイム・ワーナーやウォルトディズニーと競い合う、世界トップ10のメディアコンテンツ会社へと跳躍します」
「産業全体の成長および、構成事業者が共に成長するために、超過成果の分配、産業構造の改善、新人クリエイターの育成などを体系的に支援します」



昨年11月24日にコスダック上場も果たしたスタジオドラゴン。上場に先立って開かれたIPO懇談会で説明された事業計画は以下の通り。

◯韓国市場占有率を現在の20〜25%の水準から、2020年には40%に引き上げる。
◯日本市場へのドラマ納品をアマゾンと協議。
◯ネットフリックスに『ブラック』『花遊記』などを販売。
◯ネットフリックス、AMC、ITVとドラマ共同制作協議中。
(AMC→『ウォーキングデッド』放送の米国ケーブルテレビ局。ITV→『シャーロック』『ダウントンアビー』の英国放送局)
ワーナー・ブラザースとドラマ共同制作の了解覚書を結び、共同企画推進中。
◯スタジオドラゴンのドラマをベトナム・タイでリメイク。
◯2020年までの3年間に、グローバル向け大作ドラマ制作に718億ウォンを、中核クリエイターの確保と国内外の事業基盤強化に700億ウォンを執行。

韓国経済証券より
스튜디오드래곤, 아마존·넷플릭스와 글로벌 드라마 제작에 1420억 투자 | 증권 | 증권 | 한경닷컴


資金は株式上場で調達するとはいえ、景気のいい話がたくさん!
CJ CGV同様、海外展開にも積極的。

ところで、市場占有率40%が目標ということですが、その場合、小規模制作会社は生き残れるのか心配してしまう。tvNなどCJチャンネルでのドラマ数を増やして、制作は他社とのコラボ、という形ならば「構成事業者が共に成長」することも可能なのでしょうが。




◇◇◇強み其の三、
資金力で獲得したクリエイター

立場が強くて資金力がある。この強みを実感したのはキム・ウンスク作家の新作ドラマ編成ニュース。

人気脚本家キム・ウンスクとイ・ビョンホンの出会いで話題になったミスター・サンシャイン。当初はSBSでの編成が論議されていたとものの、1話あたり15億ウォンという高額な制作費にSBSが躊躇して、結局SBSではなく、tvNでの編成が確定したというものでした。
mottokorea.com

この話題の構造を整理すると

ミスター・サンシャインを制作するファ&ダムピクチャーズ(Hwa&Damピクチャーズとも表記)は、キム・ウンスク作家の所属社でもあるのですが、買収によってスタジオドラゴンが株式を100%取得している制作会社。そしてtvNは、スタジオドラゴンの親会社CJ E&Mが運営するケーブルチャンネル。


つまり
キム・ウンスク作家➖ファ&ダムピクチャーズ➖スタジオドラゴン➖CJ E&M➖tvN
と全て、繋がっているし!

SBSとの交渉で条件が折り合わなくても、後ろに系列のtvNが控えているなら、ファ&ダムも譲歩しなくていいよなあと思ってしまった。


スタジオドラゴンが買収したのはもう二社。

まず、『星から来たあなた』の縁でパク・チウン作家を獲得した文化倉庫を買収。文化倉庫は、つまりはチョン・ジヒョンの所属事務所です。買収後の初作品が、パク・チウン×チョン・ジヒョンの青い海の伝説になります。

文化倉庫には、昨年11月までパク・ミニョンも在籍していたが再契約せず。チョ・ジョンソクも今年2月半ばで契約満了。現在俳優で在籍するのはチョン・ジヒョン一人です。


もう一社は、『善徳女王』『根の深い木』『六龍が飛ぶ』を共同執筆したキム・ヨンヒョン作家とパク・サンヨン作家が在籍するKPJという制作会社。KPJは、現在放送中の『小さな神の子どもたち』を制作しています。


キム・ウンスク,パク・チウン,キム・ヨンヒョン,パク・サンヨン作家も含めて、スタジオドラゴンは133名の中核クリエイターを保有(作家64人、演出35人、企画34人)。これら中核クリエイターたちが、ウェルメイドドラマ制作の源と位置付けられています。
聯合ニュース
http://www.yonhapnews.co.kr/bulletin/2017/11/09/0200000000AKR20171109088500008.HTML


以上長々〜と書いてきましたが、

編成の心配のない組織で、資金力もあり、今後もさらに中核となるクリエイターを獲得する計画のスタジオドラゴン。


もう一点強みを加えるなら、CJグループに共通する、上昇志向というか成長志向。これも事業の推進力として非常に大きいと感じました。ただ、市場占有率40%、というような数字にこだわり過ぎてしまうようなことがあると、強みが逆方向に作用する恐れもあるかな、とも思います。